歴史のオマケ:22

 狛犬/9

狛犬を調べていて先人の驚くべき文章に出会ってしまった。
書いた人は狛犬調査人のA氏。こんな文章だった。『ちょっと調べ事をしていて、こ
んな記述を見つけた。主に戦前、空想科学小説の分野で活躍した作家に海野十三がいる。
彼が終戦前後に綴った日記が『海野十三敗戦日記』として公刊され、
その昭和20年7月29日の項目に、こう書かれている。

「宮益坂を電車はのぼる。明治天皇御野立所と書いた神社跡が左にある。
この奥の社殿は形もなし、こま狗だかお狐さんかの石像が二つ、きょとんと立っている。」
宮益坂は学生時代その途中にある古書店によく足を運んでいたので、
その途中に神社があることを知ってはいたが、その境内に足を踏み入れたことはなかった。
この文章を読んで、その神社を訪ねてみる気になった。
渋谷郵便局の少し坂下に鳥居がある。そこから伸びる石段を登ったところに社殿がある。
宮益御岳神社という。

御岳神社ということで社殿の前には1対の山犬(狼)像が置かれている。
ブロンズ製で昭和55年設置のもの。この御岳神社は昭和20年5月25日の空襲で焼失後、
長く仮社殿のままであったものを昭和55年に現在の姿に再建したもの。
この山犬はその時に新設されたもの。見たところ、境内にはこの山犬しかありません。
海野十三が見たものはもうないのでしょうか。ふと、売店の中を覗きこむと、
神社のパンフレットが見えた。その表紙に現在のものとは異なる山犬が写っている。
そこで、ご神職に声をかけお話を伺った。

すると、その写真のものが元の山犬で、阿像の首が折れてしまったので
補修して社務所に安置してあるというお話でした。パンフレットには「鎮座年暦等不明ですが、
延宝年間の作品と思われます」とあるが、それは言い過ぎでしょう。
しかし、江戸時代のものではあると思われた。海野十三が見たのはこの山犬だろう。
なるほど「こま狗だかお狐さんか」と迷うのも無理はない。全身が真っ黒くなっているのは
焼夷弾の火にあたって変色したものだろう。焼け野原の中にこの山犬が
焼け残っている情景を想像すると、背筋に寒気が走る。

こうした戦災にあった狛犬や神使にはとりわけ東京23区内ではよくお目に掛かる。
その度に何とも言い様のない気分になってしまう。そんな中でも、戦災に遭った
狛犬というと反射的に思い浮かべる狛犬が私にはある。新宿区の若宮神社の狛犬だ。
石で出来た狛犬、それも昭和2年に設置された当時まだ新しかった狛犬が
ここまでの姿になってしまう。どれほどの猛威がここに加わったんだろう。それを考えると
私の中ではこれは原爆ドームにもひけを取らない戦争の惨劇を物語る生き証人だった。

しかし今、この狛犬は現存していない。平成10年に若宮神社は再建され境内には
マンションが建ち、社殿の下は駐車場になってしまった。そして社殿の前には
真新しい狛犬が白々しい顔でこちらを見ているだけ。こうして歴史は消えていくのでしょう。
誰も気付かぬうちに。』名文だと思った。私も名古屋における狛犬の調査に励まなければと
叱咤激励されたと勝手に思ってしまったんだな。写真は上から江戸時代の山犬、
再建された山犬、爆撃にあった若宮神社の狛犬、今の若宮神社。
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写真1:凛々しいほど立派な狛犬がいた。
四間道近くに江戸時代からある浅間神社に。
境内を覆い尽すような鎮守の森が印象的だった。
(西区那古野浅間神社
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写真2:拝殿前にいた狛犬は何てことないシロモノ。
しかし拝殿の奥の摂社前にいました。
この狛犬、年季の入ったいい顔をしてた。
(中区泥江県神社
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写真3:駄菓子問屋街の横にひっそり隠れてた神社。
参道か横町か判らないようなところに
この狛犬が1体だけ牙を剥いていた。
(西区明道町界隈
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写真4:天満宮といえば菅原道真と神使である牛。
しかし、ここには拝殿前に狛犬がちゃんといた。
デキは芳しくなかったけどね。
(北区山田天満宮
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写真5:かれこれ90年以上も前に奉納された狛犬が
たいしたデキではないがこの神社にいた。
長く守られてきた重みみたいなものを感じた。
(北区羊神社:大正2年奉納)
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写真6:今でこそ初詣で賑わっているみたいだが、
終戦後にある個人が独力で再建した神社だと聞く。
地元の見えない努力があって今がある。
(北区別小江神社
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写真7:名古屋北部の典型的な神社に、
これまたこれといった特徴のない狛犬がいた。
ここは空気が静かにしかもゆっくりと流れていた。
(北区安井六所社:昭和6年奉納)
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by TOMHANA193 | 2010-03-02 10:53


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