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名古屋巡礼記:29

城山八幡宮界隈/後編

∴この寺の名は善篤寺といい「鸚鵡籠中記」の著者である朝日文左衛門の菩提寺だった。
文左衛門とはいかなる武士であったか、その祖は戦国時代甲州武田の農夫で、
戦で功をなし武田家、そして家康の家臣平岩家に仕え、曾祖父は尾張徳川家御城代
組同心までなった。21歳で家督を相続、27歳の時御畳奉行に就く。家禄知行100石取り、
年貢率四公六民では40石が手取り、そして役料が40俵程、しかし文左衛門の
浪費癖のため家計は火の車だったとか。家族構成は両親と妻、娘一人、女中、下男など
7〜8人程の中・下級武士、今風にいえば名古屋市役所の営繕担当の課長か
係長クラスの不良文学青年。しかし、文左衛門は驚異的な筆まめだった。
1691年18歳から死の前年1717年45歳まで8863日ひたすら書き綴った日記
「鸚鵡籠中記全37冊」を世に残した。

∴そんな人の菩提寺、興味があって今日の訪れと合いなった。
しかし期待は裏切られるためにあるもの、この寺は典型的な今風の寺だった。
元々は大須にあったんだが戦後この地に移ってきたようだ。山門は落ち着いていて、
いかにもという風情を漂わしている。門の横にはもったいつけた何かの石碑もさり気なくある。
門をくぐって中に入っていく、しかし長くて立派な石畳がなんか変だ。
全然寺の石畳という感じがしない。これじゃ成り金の家のこれ見よがしなエントランスと
なんら変わらない。しばらく行って本堂が出てくる。本堂を見て納得というか案の定というか、
第一声は「これだもんな」だった。本堂はというとコンクリート仕立ての無宗派寺院の
2階建てといったアンバイで、その2階に入口がありシャレた階段が続いている。
庭で高級車を洗っていた気のいいジイさんが、私の顔を見てペコリを頭を下げて
「見てはいけないものをあんた見たね」とニヤニヤしている。私も「まぁこんなもんだわな」と
ペコリを頭を下げて、何もなかったようにソソクサと寺をあとにした。

∴門を出て西の空を見た時、坂道の遠く向こうに何処かの五重塔が見えてきた。
思わず「この景色、まさしく京都だ」と叫んでいた。こんな風景を名古屋で見られるとは
という驚きよりこの風景はここでしか見ることができない一種神聖な景色だと思い当たった。
坂を下って相応寺の山門の前に立つ。ここは尾張藩の祖・徳川義直が
亡き母のおかめの方(相応院)のために建立。寺宝には本尊である阿弥陀如来像、
開山眼誉上人木像、浄土三部教、山門額と本堂の額は義直の直筆で、
本堂は1643年創建当時のものである。この寺は元々東区山口町にあったが、
昭和の初めにこの地に移されたという。いかにも立派な山門が訪れる人を威圧する。
しかし、よく見ると何か変だ。境内がないんだ。山門を通って敷地に入ったというのに
回りのアパートのから丸見えの状態。いかにもいかがわしいしこれは違う。
こんなところは今まで見たことがない。後は本堂へ登る気力もなく逃げるようにして出てきた。
気持ちを高めて最後の目的地に向かう。坂の上に大竜寺はある。
この寺の一番の特徴は城郭風の本堂。屋根の上にシビを高々と揚げ
2階建ての上層部はまるでお城のような風貌。なんでも羅漢堂(古い形式を留めているという)
を落成して500躯の木像羅漢像を祀ったが、もともとは名古屋城築造の際の
犠牲者を供養するために作られたと云われる。

∴そんな由緒ある名刹がいざ来てみると「なんだ、こりゃ」という事態が多々ある。
ここもその多々のひとつ。城のような本堂、金ピカの観音像、古い形式の羅漢堂、
そういった寺に付き物のハードは申し分ないんだ。しかし何故ここにあるのか
つい聞きたくなる程似つかわしくないタイル貼りの近代的な2階建てのビルが右手にある。
それがクリ。漢字で書くと「庫裏」こんな字になる。しかし全然クリらしくない威容だし
倉庫の裏どころか表の中心にデーンとある。何が気に入らないって寺のマツリゴトの
中心である本堂よりもこのクリの方がこの寺では重要なんだということがおのずと
判ってしまうこと。「こういうものは見たくないな」と思ってしまう。汗水垂らして
ワザワザ来たのに何かガックリと気分が萎えてきたのが判る。「今度は清々しい仏に
遇いたいものだ」と、こんな時はスゴスゴと引き下がるに限る。こうして名古屋巡礼の旅も
全行程約4km高低差のある道を踏破して無事終了したのであります。
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写真1:楚々としてチカラ強い鐘付き堂がある。
ここだけが時の経つのを忘れさせてくれる。
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写真2:大竜寺、観光パンフと実際とは違う。

by TOMHANA193 | 2010-03-02 15:11


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